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2年にわたって準備してきた地域芸術祭「第3回 山形ビエンナーレ」が、いよいよ来月開幕する。嬉しいことに、今日までに運営ボランティア登録は250人を超え、毎月2回木曜の夜に、東北芸術工科大学に集まって、展示する作品や、招待アーティストたちの活動について、企画を担当する僕から登録メンバーに説明する勉強会を開いている。
毎回250席ある講義室がほぼ埋まるのだが、たくさんの学生たちにまじって、小さなお子さんを連れたお母さんや、仕事帰りの社会人の姿もある。なんと東京から、高速バスで通ってくる美大生もいる。
僕は大学教員なので、普段から大勢を前に話をするのは慣れているが、単位もバイト代も出ないのに、熱心に聴いてくれるたくさんの顔を前にすると、ありがたくて嬉しくて、胸にこみ上げてくるものがある。
これだけの若者たちが、この芸術祭に関わることで触発され、将来それぞれが暮らす地域で、創造的なアイデアをもって活躍してくれたら、地方はもっと面白くなるはずだ。アートを通して、東北の美しさと地域文化の魅力を伝えたいと、普段の授業よりもスライドづくりに力が入る。
先週の勉強会では、制服姿の高校生が2人、学生に混じって座っていた。カラフルな美大生たちのなかで、白いセーラー服は花畑の鶴のように目立った。平日の夜だし、まわりに保護者らしい姿もなかったので声をかけると、2人とも高校1年生で、自分で勉強会のことを調べて、学校の帰りに思い切って来てみたという。
「社会人でも大学は敷居が高って尻込みする人が多いのに、すごいね」と声をかけると「山形ビエンナーレはいつも観る側だったので、今回はつくる側に入りたかったんです」とハキハキと答えてくれた。 よく話を聞いてみると、山形ビエンナーレ芸術監督で、絵本作家の荒井良二さんと僕が、8年前に開催したスケッチ大会にご両親と参加したそうだ。当時小学2年生。記憶のなかからおかっぱ髪の女の子がよみがえった。震災を挟んでこの8年間、僕たちには駆け足で過ぎ去った年月だけれど、次世代への種はまかれていたのかと勇気づけられた。
大学主催のアートイベントに、地元の高校1年生が自分の意思で参加するというのは、山形ではなかなか起こりにくいことだ。また、ひと昔とちがって、多くが奨学金を借りていて、就活のプレッシャーと日々のアルバイトで忙しい学生諸君が、250人もボランティアに参加してくれることが、どんなにすごいことか、大学教員だからこそ、よく分かっている。運営責任者として彼らの「学びたい、出会いたい、つながりたい」という期待にしっかりと応えたい。それはそのまま、僕にとっての「地域づくり」の最前線だと思うのだ。(産経新聞コラム「みちのおくへ」/2018年8月掲載)