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TAKENORI MIYAMOTO / Portfolio

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NOTE

ぽっぽの話

笹野一刀彫の戸田寒風さんに、米沢の郷土玩具「お鷹ぽっぽ」の制作行程を見せていただいた。あぐらをかいた寒風さんの懐のなかで、コシアブラの丸木が、みるみる鳥の姿に削られていく様子に感嘆しながら、僕はふと「お鷹ぽっぽの〈ぽっぽ〉って、尾っぽって意味ですよね?」と確認するように質問してみた。すると、寒風さんから意外な答えがかえってきたのである。

「いや、これはアイヌ語だ。〈ぽっぽ〉はアイヌ語で〈おもちゃ〉って意味だよ」。

古代の蝦夷はアイヌ語系の言語を話していたらしい。調べてみると、山形県内にはアイヌ語由来をされる地名がたくさんあることがわかった。「左沢(あてらざわ)」や「遊佐(ゆざ)」などがそうである。自然界の精霊を敬い、自然とともに生きるアイヌの人々の暮らしが、かつてここ山形でも営まれていたことを知り、不思議な心持ちになった。

朝日連峰の広大なブナの森で、立派な髭のアイヌの狩人が、獲物を待つ長い時間の手慰みに、そこらの丸木をひろって、愛する我が子のために「ぽっぽ」を刻みはじめる。狩りは空振りに終わったが、コタン(村)に戻った彼は、チセ(住居)から飛び出すように出迎えてくれた小さな少年に、懐から「ぽっぽ」を取り出して与えた。少年は大喜びだ。そのとき、彼の手のひらに握られた「ぽっぽ」は、どんな姿形をしていだろうか。神話の神々か、森の獣たちか。それともご先祖たちの姿だろうか。

そんな空想を楽しんでいるうちに、丸木のてっぺんに鳥がのった「お鷹ぽっぽ」が、クイーンシャーロット島のトーテムポールと重なって見えてきた。この島の有名なトーテムをつくったカナダの先住民・ハイダ族の意匠は、アイヌのそれとよく似ているといわれている。彼らの創造神話はワタリガラスを主役とし、またハイダ族を含む北アフリカ・インディアンのトーテムポールは、柱の一番上に鳥(サンダーバード)が彫られることが多いという。見ようによっては、巨大な「お鷹ぽっぽ」のようなものではないか。

山形の家庭なら、床の間や茶箪笥のなかに、ごく普通に置かれている「お鷹ぽっぽ」が、山形から北海道、樺太、カムチャッカ半島、アラスカをぬけクイーンシャーロット島へと、父祖たちの偉大な足跡をたどる、想像の旅を飛んでいく。そのかすかな痕跡が「ぽっぽ」という愛らしい響きに残されていることが、じんわりと嬉しい。(産経新聞コラム「みちのおくへ」/2017年11月掲載)