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TAKENORI MIYAMOTO / Portfolio

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NOTE

野生のスイッチ

先月のこと。兵庫県の男児が、毒蛇とは知らずにヤマカガシを捕まえようとして噛まれ、一時意識不明と報じられた。この蛇には朱色の斑があって目立つから、持ち帰りたくなった男子の気持ちはわからないでもない。当初、街中の公園で噛まれたと報じられたこともあり(実際はちかくの山だった)全国的な注目を集めた。子供って、その種の生き物が好きだ。我が家の娘たちも危険生物図鑑を愛読していて、毒のある爬虫類や昆虫については、僕よりもずっと詳しい。
毒といえば、次女(小3)の夏休みの自由研究は「山のキノコ」だった。この夏はずっと雨だったからたくさん生えているだろうと、ちかくの富神山に家族でキノコ探しに出かけた。富神山はピラミッド型の小さな山で、周辺の人々が日常的に登っているので、山道はよく踏み固められ、子供でも歩きやすい。
虫除けスプレーをし、熊鈴を鳴らしながら湿った森に分け入ると、やはり山道の脇に点々とキノコが生えている。びっくりするほど大きいもの、集まって生えているもの、カラフルなもの、ぬるぬるしたもの、ひょろりと長いもの、何かにかじられたもの、ウロコのようなもの。娘たちは屈みこんで、夢中で写真を撮った。
頂上までの往復2時間で、たくさんのキノコを見つけたけれど、この日もっとも興奮したのは、先頭を歩いていた僕が、杉の根元に小さなマムシを見つけた瞬間だった。黒い枯葉の上でとぐろを巻いている砂色の蛇はとても神秘的で、縄文土器を掘り当てたみたいな感動があった。もちろん触れたりはしない。娘たちは僕の背中越しに息を飲んで見つめていた。
翌日。次女はさっそく現像したキノコ写真の束をノートにはさんで、意気揚々と図書館に出かけた。積み上げたカラー図鑑と撮った写真を見比べてみると、彼女が一番お気に入りだった赤いキノコには強い毒があることがわかった。子供の調べ学習なので、毒の有無の正確な判断資料にはならないが、自然への驚きを素直に書き留めた、なかなか「読ませる」フィールドノートになった。特にマムシのページはクラスの友達に好評だったらしい。
毒のある生き物は捕食者から逃れるため、派手な姿をしているものが多く、その警告のサインが子供たちを惹きつけるのか。あるいはそれが危険であることを、子供たちは本能的に学習しているのか。駅前のマンションで育っている我が家の娘たちにも、野生感覚のスイッチがちゃんと備わっていて、森の中でいきいきと作用しているのを見て、なんだか嬉しくなった。
代々木公園で蚊が媒介したデング熱が発生する。ヒアリが貨物コンテナに乗って海を渡り、湾岸の広場から子供たちの姿が消える。イノシシが山から街へマダニを運び、それが猫からヒトへと感染症をうつす。連日のように報道されるこの種のニュースは、環境の変化に鈍感すぎる僕たちへの、自然界からの警告だろう。都市・地方の区別なく、子供たちのような好奇心であらためて自然を注視することが、いま求められているのではないか。
(産経新聞コラム「みちのおくへ」/2017年9月掲載)


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