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TAKENORI MIYAMOTO / Portfolio

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NOTE

月並みですが

卒業式の朝。たくさんの教え子たちとつながっているfacebookに、門出を祝うメッセージを投稿した。
「春のかすみが美しい今日は、東北芸術工科大学の卒業式。月並みですが、それぞれの幸福を探求してください。学び続けてください。身体と家族と故郷を大切にしてください。変化や孤独を恐れず、消費よりも創造を慈しむ人生を送ってください。そして、その道行きをともにする、良き友・良き伴侶と出会ってください。」
せっかく芸術大学を卒業するのだから、こんな月並みな幸福論ではなく、その対義語であるような、〈非凡〉とか〈異色〉とか〈卓越した存在〉であれと激励すべきだろうか。 いや、元美大生であり、この業界で長く仕事をしてきた経験から、異色な存在としてエネルギッシュに生きるためにこそ、健康的な心身の支えが大事だと骨身にしみている。だからあえて、〈月並み〉な幸せの尊さを、厳しいクリエイターの競争に参入していく彼・彼女らに伝えておきたかったのだ。
ところが、投稿を読んだ若い友人から、「それって、僕らにとってはぜんぜん〈月並み〉じゃないです」と指摘された。
自分が住みたい街で希望の仕事に就ける若者がどれだけいるだろうか。 創作や旅を楽しむ時間的・経済的な余裕がある若者がどれだけいるだろうか。 職場で納得がいかなくても日々の糧を得るためみんな歯を食いしばって働いている。
月よりも遠い小惑星に無人探査機が行って帰ってくる時代だが、その科学技術の軌道に反して、結婚に育児、戸建の自宅で一家団欒にマイカー… 若い世代ほど昭和的で〈月並み〉な幸福は、ますます手がとどきにくくなっている。
かくいう僕も、住宅ローンと膨らむ一方の子供たちの学費を賄うため日々懸命に働く大黒柱なのだが、ひとたび心身を壊せば一寸先は闇である。太陽のように燦々とした日々でなくて結構だが、せめてお月さまくらいは、しっとり輝く人生でありたいと切に願う。
夜空に綺麗な満月がかかると、娘から「空を見てごらん!」とLINEが入ってくる。スマホから目を離して、ビルやネオンサインの隙間に、ホットケーキのような月の発光を探す。
そういえば、日本最古の物語は「竹取物語」である。新しい元号の「令和」は万葉集を典拠にしたそうだ。 どんな時代でも変わらないものがある。それぞれの幸福に至る道筋は複雑怪奇で暗中模索だが、人生という旅の目的はいつもシンプルである。
みなさん、またどこかで。
(産經新聞[東北版]コラム『みちのおくへ』/2019年4月掲載)


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