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TAKENORI MIYAMOTO / Portfolio

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NOTE

田中望「ものおくり」

震災後、学生たちと宮城県の小さな半島を訪ねた。リアス式海岸に沿って、集落や漁港が連なっていたはずだが、家々は大津波にほとんどさらわれ、浜ごとに神社だけが、海を見下ろす山の中腹にぽつねんと遺されていた。社の多くは地震で半壊しており、色鮮やかな神輿や、漁師たちが豊漁を祈って奉納した船絵馬が、傾いだり床に投げ出されたまま、信仰の恢復を静かに待っていた。しかし、住民たちが浜を離れたいま、祭の再興は、一体いつになるのか。
だから、2013年春の鶴岡で、田中望さんが描いた船絵馬が、大工の手による額で飾られ、山王日枝神社に賑々しく奉納されたと伝え聞いたとき、僕は言い知れぬ感動を覚えた。山王商店街の鄙びた看板や、そこで生業をもって暮らす人々の姿を、田中さんは大きな船絵馬に描き込んだ。五穀豊穣、商売繁盛、子孫繁栄。人々の願いを乗せた船は、社の内壁にピタリと掛けられて、時を越える旅を漕ぎ続けている。
今回、田中さんは座礁鯨を描いた。古来よりこの国では、漂着した鯨を「寄り神」として塚や碑を立てて追悼したという。擬人化された兎たちが列島各地の祭を捧げて、そのあまりにも巨大な死を弔っている。田中さんは直接的に震災を描いたわけではないが、この「ものおくり」の光景は、きっと後世の人々に伝えてくれるだろう。東の浜で何が起こったのか。そして黒い鯨の身体からは、今もなおとめどなく、血が流れ続けていることを。
(「VOCA展2014」カタログ寄稿・推薦文/2014年3月掲載)