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ワタナベアニ「シネマ通り」

ワタナベアニ写真展「シネマ通り」

2017年10月5日[木]→12日[木]/とんがりビル

プロデュース/キュレーション

アイデアはとてもシンプルだ。とんがりビルに8日間、写真家が滞在して、この界隈の路上で道行く人々のポートレートを撮影し、翌日にはプリントアウトして貼り出す。展示する写真は、すべて黒バックのポートレートで、オープニングの段階では、壁面はほとんど真っ白かもしれない。日を重ねるごとに作品が増えていく〈現地制作〉の〈即展示〉と、構造はシンプルだが、ここで僕らが描こうとしているストーリーは、そう単純でもない。
まず場所。とんがりビルがある山形市七日町の通称「シネマ通り」には、かつて7つの映画館が立ち並んでいたが、今は全て廃業して取り壊されて跡形もない。「シネマ通り」の活況は、当時を知る世代のノスタルジーにしかなく、エドワード・ホッパーが描いた黄昏のような2017年9月現在のこの通りから、かつてのシネマ・パラダイスを想像することは難しい。ここは商業映画に見捨てられた街区なのだ。
次に期間。撮影をおこなう10/5~12日の8日間は、シネマ通りを含むこの界隈で「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」が開催され、世界各地から映画関係者が集結する(映画館は消えたのに、映画祭は続いているなんて奇妙な話だ)。とんがりビルも上映会場になるため、ここで撮られ、貼り出されるポートレートは、山形にも東北にも帰属しない、旅するドキュメンタリストたちが、その多くを占めるだろう。
そして写真家は、ワタナベアニである。福島・パリ・東京の路上で、アニさんが活写した市井の人々のポートレートを見た。とても優美な写真だ。みんないい顔で写真におさまっている。優れた写真家は、ありふれた人や街にファインダーを向けていても、目に見えないものを捉えようとしている。だからこれらも、普通のポートレートであるはずがない。アニさんは、プロのファッションモデルを素人のように撮り、素人をファッションモデルのように撮る。路上で、デイライトで、ほんの数秒間で撮られているはずなのに、彼らはみんな通行人Aを演じる、プロの俳優のように見える。

映画館の消えた街で、映画の祭典が催される8日間だけ、幻のように復活する「シネマ通り」は、山形にあって山形ではない、架空の場所のようだ。そこで生まれるフェイクとリアルが綯い交ぜになったストーリーを、一本の未生の映画として描くことはできないだろうか? 実はアニさんと僕はそんな、シネマ通りを舞台にした映画の制作を夢想しはじめていて、この写真展「シネマ通り」は、そのプロローグである。