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武田鉄平展「絵画と絵画、その絵画とその絵画」
2016年7月2日[土]→14日[木]/KUGURU
キュレーション
アトリエには、紙の束や分厚い画集やレコードの類が、床からうず高く積みあがっていた。大きなスピーカーに載せた作業版に、几帳面に並んだたくさんのチューブ。駅前の通りに面した大きな窓には、ブラインドがびたりと降ろされていた。足を踏み入れた途端、このアトリエがどれほど切実に、安っぽい駅前の風景と隔絶して存在してきたか、僕は一瞬で、理解できた。
イーゼルに描きかけの絵画があった。のっぺらぼうの顔。フィルムを逆回しにするように、この絵の成り立ちを、アトリエのなかのいくつかの手がかりから辿ってみる。雑誌のグラビアなどから抽出した顔を、コピー紙に無造作に描き殴る。ほんの数分のストロークが生みだした色の混濁を、今度は数ヶ月を費やして、キャンバスに克明に描き写していく。集中力と描写力を要する仕事だ。
「顔」は、もはや「俺」でも「おまえ」でも「誰か」でもなく、「絵画」になりたがっている。なろうとしているけれど、はたして俺は「絵画」なのか? これが「絵を描く」ということなのか? という問いを、のっぺらぼうたちは発している。なぜ描くのか。何を描きたいのか。僕は尋ねなかったし、彼も多くを語らなかったが、2年以上を費やしている「顔」の連作が、まもなく完成するという。この夏、武田鉄平のアトリエから、彼が外に出すことを許した数枚の絵画を、KUGURUに展示する。彼の初個展だ。おそらくひどくガランとして、それでいてひどく演劇的な、忘れ難い展覧会になるだろう。(展覧会によせた文より)