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kanabouの「盆地文庫」

kanabouの『盆地文庫』

2017年11月14日[火]→19日[日]/森岡書店

クリエイティブディレクション/編集

山形ビエンナーレディレクターの宮本武典と、デザイナーの小板橋基希が代表をつとめるデザイン事務所akaoniは、震災以前・以後に東北各地で、草の根から積み上げてきたアートディレクションの実践知を、より幅広い分野や地域で活かしていくべく、プロジェクトユニット「kanabou」を立ち上げました。
kanabouとしての初仕事は、私たちが敬愛する表現者たちが、ここ山形の村山盆地で生み出した作品を収集・記録する本『盆地文庫』の出版です。書籍化という方法でしか語り継ぐことが困難なアーティストたちの〈モノがたり〉を、豊富なビジュアルでアーカイブしています。

掲載:荒井良二、ブルーノ・ピーフル、いしいしんじ、スガノサカエ、坂本大三郎
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アジアとヨーロッパを放浪したあと、二〇代の終わりに妻と二人で山形に移住してすぐ、民俗学者の赤坂憲雄さんから「小盆地宇宙」という言葉を教わりました。それは私にとって、ちょっとした解放でした。「世界」に挑戦するのではなく、「中央」に固執するのではなく、「辺境」を流離うのでもなく、この「盆地」を、わたくしの人生における宇宙とし、そのなかで家族を養い、若い人たちに教え、生活と地続きの景色から美術を考えていくのだと。
私には二人の娘がいます。山形で子供を育てていると、山の社や、祭や昔話、老人の手仕事が語りかけてくる教訓や愛を、感じないわけにはいきません。それはどんなに時代が変化しても、明け渡してはならない、想像力のふるさとです。本書はこの村山盆地で、山への独自の感受性によって、この声なき声をとらえた作品たちを記録するものです。
本書の編集過程で、処方箋の裏に描かれた絵を数え、煤だらけの窯にもぐり、原生林を歩きながら、私はこの盆地の底に眠っている「母のようなもの」に近づいていくのを感じていました。あるいは私自身もこのモノがたりの、一つの構成物となっていくような不思議な感動を覚えました。伝承や路傍の碑から呼びかけてくる父や母たち、物語のなかの子供たちと交わるための、通路のようなものが編めたと思います。(宮本武典)

kanabou.com