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TAKENORI MIYAMOTO / Portfolio

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『TL』

『TL』

発行日:2023年3月2日
制作:東京藝術大学社会連携センター開設〈東京藝大アーツプロジェクト実習|丸の内ゼミ〉( 荒川真穂、飯沼爽、小田口桜子、上條晴翔、桂融、杉山明理朱、田村正樹、宮城薫、山田ゆり、山本光)

クリエイティブディレクション

〈TL〉制作チームは、美術学部の学生だけでなく、作曲や演奏法を学ぶ音楽学部の学生や、芸術学や教育学など理論系の院生など、様々な学域から集まっている。芸大生たちは僕がプログラムを設計した大丸有(大手町、丸の内、有楽町)エリアのリサーチ・プロジェクトに参加し、そこで観察した都市開発の風景からこの作品をつくりあげた。その名のとおり、この冊子にはいくつもの”Timeline”(タイムライン/時間軸)が、重層的に流れている。

1つにこれは、オリジナル・サウンドトラックである。5つのトラックは、東京駅丸の内口の〈丸ビル〉を出発し、JR有楽町駅前の〈有楽町ビル〉までの徒歩移動(およそ10分)にある、この街区を構成する5つのエレメント… 林立する高層ビル群や路上の彫刻、ワーカーたちの声などをモチーフに構成されている。

2つにこれは、ミュージックビデオである。1のサウンドトラック収録後、学生たちは再び大丸有に集まって、曲のモチーフとなった場所でミュージックビデオを撮影した。サウンドのイメージをなぞりつつ、ビデオではさらに昼間から日没までのタイムラインでシークエンスを構成し、光と人流のうつろいを重ねている。サウンドトラックはミュージックビデオを発表形態とし、vimeoにアップロードしているので下記URLから視聴可能である。
▶︎ https://vimeo.com/797572655

3つにこれは、ナラティブ・ストーリーである。トラック04〈Tokyo Narrative〉では、大手町のITコンサルタントだった女性が、自身の物語を語る音声が重ねられている。順風満帆だったはずの仕事を辞め、別世界へ飛び込んだ“現在の私”(彼女はその後、ロンドンに留学してアートを学んだ)が、かつて典型的な丸の内OLだった“かつての私”について回想する。サインドトラックのモノローグはその一部を切り取ったものだが、本紙では全文掲載した。ここでのタイムラインはひとりの女性が通り過ぎた大丸有での人生のワンシーンである。

4つにこれは、ドローイングブックである。
サウンドトラックにスコアは存在しない。音楽学部のメンバーが上野校地にある僕のスタジオに楽器を持ち寄り、ほぼ即興で5つのトラックを演奏・収録した。3のインタビュー取材も同日に実施している。本紙掲載のドローイングは、この日のセッションに立ち会った美術学部のメンバーが、その時の音や演奏者たちのやりとりをスケッチしたものだ。

都市の風景や人々との交流から音を生み出し、その響きとイメージを映像化し、絵や物語などの副産物とともにこれらを冊子に編集・保存する。〈TL〉は全体として、この1→4のプロセスのことでもあるのだが、サウンドトラックを母型に絵や映像へ枝分かれしても、大丸有での芸大生たちの創作行為が、いつも片隅へ、暗がりへ、都市生活者の寄る辺なさへと、不可避に引き寄せられていくのは何故なのか。
おそらくはじめの種火を必要とするのは、いつの時代もそのような場所だったろう。ビル風に吹き消されそうなその微かな光源が照らすヒューマンスケールが、大丸有の高層ビル群を、巨大都市・東京を、いつしか生み出してきたのである。
〈TL〉という試みの真価は、このプログラムに参加した学生たちがこれからアーティストとして描いていくタイムラインの先にある。彼らの手で、都市はどのように変容していくだろうか。(巻頭文より転載)

企画制作:東京藝術大学宮本武典研究室/映像撮影:河内彰/録音:市村隼人//デザイン:樋口舞子/寄稿:杉山陽介、宮本武典/写真:廣田達也/編集:渡辺龍彦/編集補:髙橋梓/協力:「有楽町アートアーバニズムプログラム」実行委員会、丸の内ストリートギャラリー/発行:東京藝術大学社会連携センター(東京藝大アーツプロジェクト実習 丸の内)/印刷:藤原印刷(藤原章次、田川いちか)/製本:ブック・ジャパン株式会社