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『東京変 01』

『東京変 01』

発行日:2022年6月29日発行
執筆:東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 2022年度選択カリキュラム宮本武典ゼミ(石井幹太、石原亜美、井上聖太、植村佳乃子、内田まこと、浦山翔可、奥山マリカ、加来優汰、上村唯夏、木村直人、木村碧志、清武亮平、郡司英、後藤美里、小西百恵、戸奈さくら、辻凪彩、藤原涼、本田奈々、宮澤択緒、山本隼)
責任編集:宮本武典
デザイン:梅木駿佑

クリエイティブディレクション/編集

本紙は私が担当する東京藝術大学油画専攻の演習で、基礎課程の1-2年生・21名と共同制作したリトルプレスである。課題は各々が東京路上で語るべきテーマを見つけ、自由作文と挿絵で表現すること。取材・執筆・作画期間は3週間、タイトルは藝大油画の院生たちと2021年に共同制作した画文集『私東京』の韻を踏み『東京変』とした。
ここでの〈変〉とは〈変相(図)〉であり、その意味は古来より仏教の説話で極楽や地獄の絵解きに使われた仏画を指す。パンデミックは人口密集によって都心部に生じる感染爆発や都市型災害、環境汚染やスラム化のリスクを露呈させ、〈東京〉の発展的なイメージは大きく損なわれることになった。今の画学生たちの眼にそんな2022年の都市風景がどのように映っているかを、この出題を通して知りたかったのである。
そしてもちろん、これは芥川龍之介の小説『地獄変』のオマージュでもある。『地獄変』の主人公は平安時代の絵師・良秀で、彼は主人から地獄図屏風の制作を命じられるのだが、「自分の眼で見たものしか描けない」と、かの空想の地の凄惨な情景を再現・写生するうち、自らの内なる地獄を現実に出現させてしまう。本紙21シーンの『東京変』からも、未だコロナ禍の東京、汚職にまみれたオリンピック以後の病み疲れた東京の諸相を背景に、若者たちの寄る辺ない心象が浮かび上がる。

2019年まで教授を務めた東北芸術工科大学では、大津波からの復興半ばの東北、止まらない人口流出と過疎化の流れのなかで、「この地でアートを教えることの意味」を常に問われてきた。では東京は? これからこの巨大都市はどんなアーティストを輩出していけるのか?
本紙は今後も東京藝大の新入生諸君と継続発行していく定点観測的な紙上企画展とする。この試みは私にとって若い世代のリアルな東京観・都市論に触れられる契機であると同時に、今はまだ無名のアーティストたちが描く〈東京〉イメージに編み込まれているはずの、この都市の未来図を探っていくリサーチプロジェクトである。